SPECIAL THANKS
薄く開いた鉄の網。
空き地のようなグラウンド。
脳裏をよぎるあの夏(きせつ)。
面影すらも残らない。
マウンドのないプレート(投手板)。
帰ってきたというよりも。
帰ってきてしまったのだ。
もう君はいないのに。
もう誰もいないのに。
僕は一人でここにいる。
ノックをする君。
ボールを捕る僕。
でも君はノックが下手で。
それを捕る僕も下手くそで。
やがて疲れて二人しゃがんで。
野球からも話題は逸れて。
他愛ないことを二人で話す。
疾風のように時間は過ぎ。
あの日の誓い。
僕はまだ果たせていない。
あの日々は流星のよう。
瞬いてすっと消えてく。
夏の日の夢物語。
でも一つ確かなことは。
君のこと大好きだった。
君だけを愛してたのに。
どうすることもできなかった。
ただ一心に叫んだりした。
でも叫んでも何も変わらず。
悲しみが増していくだけ。
無力感が募るだけ。
公園の中心でも。
世界の中心でも変わらない。
傍にいるしか術はなかった。
なにもできずに君を喪い。
僕はただ生きている。
君への愛は行き場を失くし。
想いへと形を変える。
そんな想いも行き場はなくて。
涙が出ても泣き叫べずに。
ただ強く握りしめた手。
力のない手に想いを渡す。
想いを乗せた最期の言葉。
たった一つのありがとうを。
僕はようやく誓いを果たす。
ほんの些細な約束を。
ただ眠るように安らかに。
壮絶でなくていいから。
もうすでに感覚はない。
ただ重なった悲しみの。
冷たさに身を委ねながら。
ねえ。
約束しようよ。
倒れる時はグラウンドで。
ってね。
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